誰でも「お得感」のある買い物がしたいと思うのではないでしょうか?
お得感の演出は成約の成否を左右することを、普段お客さんと接する営業担当者の方なら、痛切に感じていると思います。
実は、人間の価値判断基準には「高いもの=良質なもの」という思い込みがあります。
たとえば、壺や茶碗を見てその価格の妥当性がわかるでしょうか?
そのジャンルに精通している専門家なら話は別ですが、価値基準がわからない場合の判断基準として「価格」を基準に判断することは、ある意味合理的な考え方でもあります。
今日は、そんな価値基準を決めるときの人間の心理的な特徴「アンカリング効果」について書いてみます。
3000円のマスクはお得か?
コロナウイルスの影響で世間は一時期どこもマスクが売り切れるといったことが起こっていました。
一時は「転売ヤー」と呼ばれる、買い占めをした一部の人たちが、相当な高値で販売をしていて、マスク1箱が送料も含めて数万円という信じられない価格で売られていたこともありました。
ここ最近になって家電メーカーのシャープが販売を開始したり、広告などでも見かけるようになってきました。
また、新聞の広告欄にも数量制限付きでマスクの販売がされるようになってきました。
品薄になってから見かけるようになったマスクの価格は50枚入りで5000円程度でした。1枚100円ということになります。
さらに、安さを強調したチラシも入るようになり、3000円程度で売られていることもあります。
安くなったな~と思っている方。
もともとのマスクの価格を 覚えていますか?
3000円のマスクは本当に安いのでしょうか?
少なくとも1年前なら1箱50枚入りで500円程度で売っていました。
業務用のサージカルマスクなら、1箱50枚入りで200円もしませんでした。
そのマスクを、いまは3000円でも安いと感じるくらい「希少性」により価格の基準が変わってしまっています。
アンカリング効果とは
アンカリング効果とは、一旦そこに基準が作られるとその基準に考えが引っ張られる効果のことです。
船の錨(いかり=アンカー)に例えて「アンカリング効果」といいます。
ウィキペディアによると
アンカリングとは認知バイアスの一種であり、先行する何らかの数値(アンカー)によって後の数値の判断が歪められ、判断された数値がアンカーに近づく傾向のことをさす。 係留と呼ばれることもある。
Wikipedia
つまり、いったん基準となる数値が決まるとその基準となる数値に価値判断が寄っていくという心理現象です。
成功例と失敗例
アンカリング効果の成功例と失敗例をご紹介します。
①成功例:紳士服店を営むシド&ハリー兄弟の話
1930年代、紳士服店を営むシドとハリーという兄弟が紳士服店を営んでいました。
接客の時、シドは客に「自分は耳が悪いので大きな声で話してほしい」と何度も頼みました。
鏡を前に試着したお客からそのスーツの価格を聞かれたシドは、奥で仕立てをしているハリーに向かって「ハリー、このスーツいくらだっけ?」と尋ねます。
ハリーは「オール・ウールの最上級のやつだね、42ドルだ」と奥で仕立てをしている手を止めて答えます。
シドは聞こえないそぶりでもう一度聞きます。「え? いくらだっけ?」
「42ドルだって!」と、再び奥からハリーが答えます。
そしてシドは振り返り、お客に向かって「22ドルです」と答えます。客は急いで22ドルを払ってスーツを買い、そそくさと店をあとにしたそうです。
(引用:影響力の武器、21ページより)
この話が事実に基づくかものどうかはわかりませんが、この話のポイントは、何度も高い値段を客に聞かせることで客に「高価なもの=良いもの」という価値基準を植え付けたところにあります。
シドが間違った値段を言ったことを知りながら、22ドルで買おうとするモラルは別として、この客は気に入ったスーツの値段が「42ドルするものなんだ」とアンカリングされたことで、シドが言った22ドルを「お得だ」と思い購入を決めました。
②失敗例:ジュエリー店を営む店主の友人の話
ジュエリー店を営む店主の友人が、婚約者の誕生日プレゼントに特別なものを送りたいとお店にやってきました。
店主はネックレスをショーケースから取り出して友人に見せました。
それは500ドルで売っていたものでしたが、友人のために心の中では250ドルにしてあげるつもりでした。
そして友人はそのネックレスをとても気に入ってくれました。
友人にネックレスの値段を聞かれ「250ドルだ」と伝えると、急に友人の顔は曇りそのネックレスを買いませんでした。
友人のためにと思って安くしてあげたのになぜ喜ばれなかったのか?
それは、婚約者にもっと「良いもの=高価なもの」を送りたかった友人にとって、この値段をきいて「良いもの」だと思わなかったのです。
(引用:影響力の武器、9ページより)
この話には後日談があり、別の日にあらためて友人をお店に招いた店主は今度は他のネックレスを見せ、通常の価格の500ドルだと説明した後、250ドルにしてあげることを説明しました。友人はとても喜んでくれたそうです。
ゴルディロックスの原理とも似ている
マーケティング戦略でいう「ゴルディロックスの原理」と心理効果的には同じかもしれません。
ゴルディロックスの原理では、ハイエンド版とミッドレンジ版、ローエンド版の3種類用意して製品の差別化を行うことで、多くの場合ミッドレンジ版が売れる傾向があります。
これも価値の判断基準とお得感という観点から言うと似ているところがあります。
これに関しては、過去に「選択肢は3つ用意しよう」という内容で記事を書いているので、よろしければこちらを読んでみて下さい↓
まとめ
今日のまとめです。
価値判断の基準がない場合、打ち込まれたアンカーによりその後の判断が左右される心理現象をアンカリング効果といいます。
価値判断基準を持たない客には、まず基準となるアンカーを提示し、その後違う価格を提示すると、客はお得感や満足度が満たされます。
営業担当者は価格提示の順番には注意、お客さんは調べられる情報は自分で調べて自分なりの価値基準を持つことがお互いにお得感を提示したり、感じられることにつながると思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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