厚労省も注目する行動経済学「ナッジ理論」が面白い!相手を不快に感じさせずに誘導する事例

行動経済学

みなさん「直接言われてないけど、なんとなく行動してしまったこと」ってありませんか?

たとえば、コンビニのレジ

こんな足跡のマークを見ると、お店の人に言われなくてもなんとなく並んでしまいますよね。

今日は、こんなふうに「なんとなく行動してしまう」仕掛けの秘密のお話です。

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『ナッジ(nudge)』理論

さきほどのコンビニの例ですが、実はしっかりと考えられた仕掛けがあります。

それが「ナッジ(nudge)」という行動経済学の理論です。

行動経済学は、経済学の中の一つのわりと新しい学問ですが、その特徴は人間の習性や心理を含めて研究されているところです。

ナッジ(nudge)とは命令や強制によって相手に行動させるのではなく、自らが選択するように「ひじで突くように軽く行動を促す」ことです。 nudgeの意味は「肘でちょんとつつく」とか「そっと後押しする」という意味です。

相手を誘導するために、経済や行政の活動に応用されています。

「相手を誘導する」というと、なんだか人を操るとかコントロールするみたいで怪しい感じもしますが、ナッジ理論の特徴は「相手に選択肢がある」ところにあります。

人は「強制」を嫌います。たとえそれが正くても。

ところがナッジ理論を応用すると、相手は強制されたと思わず自分で選択して行動します。

仕掛ける側は、相手にこちらが望む行動をとってもらうことができます。もちろん完全に誘導することはできません。

実は厚生労働省もこの理論を応用して、がん検診の受診率をあげようと取り組んでいます。

行動経済学とは

これまでの経済学では「人間は経済的、合理的な判断のもとで意思決定する」という想定で理論が構成されていました。

しかし、実際はどうでしょう?

人間は、その時の感情にまかせてムダな買い物をしたり、正しくないとわかっていても間違った判断をするものですよね。

行動経済学では「人間の判断は不合理である」という前提で考えられています。

厚生労働省ハンドブックより

行動経済学は「人間の心理と行動」を研究し、人間が合理的ではないという前提で、経済行動を研究している学問です。

ナッジ理論はリチャード・セイラー教授が提唱した理論

ナッジ理論は、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授らが提唱し、2017年、リチャード・セイラー教授はノーベル経済学賞を受賞されました。

ナッジ理論の原著の表紙には、象の親子の像の絵が描かれています。
親の像が端で子供の像をそっと押しながら歩く、そんな絵です。

親像が、子供の像を自由に歩かせながらも、そっと後からつっつく様子は、まるで親が子供の成長を後ろから、間違った方向へ行かないよう見守っているようにも見えます。

Amazonより

マーケティングや公共政策の分野で注目されていて、コストコなど、企業がビジネスに取り入れたり、イギリスを始め多くの国や自治体が公共政策の企画に取り入れています。

日本では、先ほども書いた厚労省ががん検診の受診率アップのために応用したり、横浜市がナッジ理論を取り入れた行動デザインチーム「YbiT」を立ち上げています。

ナッジ理論の事例いろいろ

コンビニの床のマークのように、思わず提示された選択肢のほうへ誘導されるナッジ理論ですが、他にもおもしろ事例をいくつかご紹介します。

①男性用小便器の標的

トイレの小便器に「的」のシールが貼ってあることがあります。

正しくは「ターゲットマーク」と呼ぶそうですが、便器から小便がはみ出さないようにすることが狙いです。

その歴史は古く、行動経済学の理論が唱えられる前からありましたが、結果として「行動経済学の理論を実践していた」ということになる事例です。

的があると男の子はスナイパーのように狙いたくなる心理、なんとなく理解できませんか?
思わず誘導され的を狙い、結果として便器からはみ出さずに衛生的にトイレを使用していることになります。

最近はシールにバリエーションが増えてこんなのもあります。面白いですね。

トイレそうじにおたすけシール「命中くん」

②自転車の不法駐輪防止のための表示

写真 ねとらばより

駐輪禁止のスペースにもかかわらず、不法な駐輪が後をたたなかったため、「駐輪禁止」の表示の代わりに「不要自転車置き場」にすることで不法駐輪が減ったという事例です。

不法に駐輪する人は、自分の自転車が「自転車捨て場」に置くことで、もしかしたら盗まれたりイタズラされたり「良くないことが起こるかもしれない」という心理になります。
「禁止」という強制的な言葉を使わず「止めるのかどうかの選択は任せるけど、何があっても知らないよ」と表現を変えるだけで、思わず「ここに駐輪するのやめておこう」という気持ちにさせることができます。

もちろんこれは本質的な改善ではなく、いらない自転車を本当にここに捨てられてしまったらそれはまた問題ですが。

③投票箱(バロットビン ballot bin)キャンペーン

イギリスの「hubbub」という環境保全団体が行った、街のタバコのポイ捨てを減らすためのキャンペーンがあります。

投票箱の灰皿」を設置し、人気投票やアンケートの投票方法を、タバコの吸い殻を入れて投票するというユニークな方法をとりました。

たとえば「サッカーで世界最高のプレイヤーは?ロナウド or メッシ?」と書いた投票箱の灰皿を用意し、吸い殻を投票箱に投票してもらいます。

この結果、街のポイ捨てが約46%減少したそうです。
ただ「ポイ捨てをやめよう」と呼びかけたり、多大な経費をかけて街の清掃を行うよりも効果的です。

強制ではなく、楽しくてポイ捨てをやめて思わず投票したくなるような仕掛けは誰も嫌な思いをしませんよね。

本来は吸殻は灰皿に入れる、という当然の行動を理解させることにはなっていないという、厳しい意見もありそうですが、ナッジ理論を応用して街の清掃コストを下げる素晴らしいアイデアです。

灰皿ポストについては「hubbub」のYouTube動画があります。それがコチラ

④厚生労働省が取り組むナッジ戦略

厚生労働省ハンドブックより

厚生労働省では、がん検診の受診率をたかめるために冊子を作成しています。
その中で、がん検診対象者に対してただ受診を促すのではなく「行動するきっかけの提供」を目的とした効果的な取り組みを紹介しています。

たとえば、福井県高浜町。

高浜町では、がん検診の受診率を高めるために次回の健診の受診についての質問を「どれにする?」から「いつにする?」に変更しました。

それまでは受診者に選んでもらうようになっていた「検診オプション」の項目を、最初からセットになっているように表示して、質問を「どれを選びますか?」から「いつ受診しますか?」という質問形式にしたのです。

これによって、オプションの申し込み率は36%から53%へ上昇しました。

⑤コストコのナッジ理論事例

コストコでは心理学やナッジ理論を使い、「買わせるための仕掛け」が多数取り入れられています。

「年会費制」やホットドッグなどの「安い食べ物エリア」、場所に似合わない「高額商品を展示」したり、やたらと「大きいカートを使う」など、いろいろなところに仕掛けを仕込んでいます。

たとえば、年会費制はサンクコスト(埋没費用)効果が狙えます。
サンクコストとは「すでに支払ってしまって戻ることがない金銭的・時間的・労力的なコスト」のです。

そしてサンクコスト効果では、支払ったコストを取り返そうとする心理効果があります。

それが「どうせ年会費も払ってしまっているから買い物に行こう」という行動をとらせてしまいます。

入り口に安いフードコートがあると、そこへ行くことが目的になって、お店へ寄って行ってしまいます。

また、カートに大きく空間が開いていると、つい他のものまで買ってしまう、という「なんとなく行動をとる」ように仕向けられています。

ナッジ理論を応用したアイデアを考えてみては?

いくつかの事例をご紹介したのでナッジの仕組みは大体わかったと思います。

最近、車を運転していて1つ思いついたものがあります。それが、交差点の立て看板。
先日、交差点で信号待ちをしていると、交差点に交通事故多発しているという看板がありました。

ただ単に「交通事故多発交差点」と書いてありました。もしこれを、
事故発生件数、県下ワースト1位!次に事故を起こすのは誰?」なんて書いてあったらどうでしょうか?次に事故を起こすのが自分にならないよう気をつけようと思いませんか?

このナッジの仕組みを仕事や生活、その他の活動に取り入れてアイデアを出してみるのも面白いと思います。

まとめ

今日は、行動経済学の中の1つの理論、ナッジ理論とその事例をご紹介しました。
ナッジ理論は相手に選択肢を残しながら、ある程度の確率で思った方向へ導くことができる理論です。

冒頭にも書きましたが、人間は強制されることを嫌います

自分で決めてもらいつつ、ある方向へと導くことができれば、特に公共政策上は公共コスト削減にもなり有効な方法だと思います。

ナッジ理論をマーケティングに応用すれば、たとえば、売りたい商品を選んでもらえる可能性を高めることもできます。

過去に関連する記事も書いているので時間があればこちらの記事もどうぞ。

また逆に、この理論を知っていると、お店で商品を選ぶ時や、用意されたサービスに誘導されることなく、自分が本当に必要としているものを選択することができますよね。

行動経済学についてこれからも勉強して面白いと思ったことをこれからも少しずつご紹介していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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