『ケーキの切れない非行少年たち』の感想と認知機能トレーニング『コグトレ』

読書・書評

最近話題の「ケーキの切れない非行少年たち」という本を読みました。

表紙の帯には、非行少年たちが丸いケーキを三等分できないという図が衝撃的で、各方面に取り上げられ、発行部数30万部を突破するベストセラーになっています。

本全体の詳しい解説は他の方にお任せするとして、この本の概要と僕的に気になった部分に限定して紹介したいと思います。

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概要

まず本の概要ですが、著者の宮口浩治さんは児童精神科医で、多くの非行少年たちと関わる中で、反省を促すはずの少年院で「反省以前」の子供たちがたくさんいるという事実に気づきます。

認知力が弱く、ケーキを等分に切ることができない子供が多数いることがわかり、同時にこれは非行少年だけの問題ではないと気づきます。

人口の十数%いるとされる「境界知能」の子供たちを、学校や社会生活で困らないようにするためのトレーニング方法を提案している、というのが概要です。

「境界知能」というのは、 「明らかな知的障害とはいえず、環境を選べば、自立して社会生活ができると考えられるが、状況によっては理解と支援が必要なレベル」の知能のことです。(発達協会HPより)

本書の構成

本書は全7章で構成されています。僕が特に印象に残ったのは 第1章、第3章、そして第7章 です。

目次
  • 第1章 「反省以前」の子どもたち
    第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
  • 第3章 非行少年に共通する特徴
    第4章 気づかれない子どもたち
    第5章 忘れられた人々
    第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
  • 第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える

それでは、気になった部分の説明と感想を書いていきます。

第1章 「反省以前」の子どもたち

反省以前」というのは、自分がしたことが悪いことだという認識がないということです。

なぜ認識がないのか?というと彼らの中には「認知能力」に問題があり、自分の行動の善悪について認識していないので、これでは反省させようにも難しい、というのです。

著者の指摘通り、これではたとえ少年院でさまざまな更生プログラムを用意していても、それらのプログラムが正常な「認知能力」を前提としている限り彼らには有効ではありません。

認知能力が低いと想像力が弱く、想像力が弱いと自分がしたことやこれからしようとすることが悪いことであるという想像ができないので、犯罪を犯しても悪いことをしたと反省できません。

このままだとたしかに「反省を促す以前」の問題です。

第3章 非行少年に共通する特徴

第3章では非行少年に共通する特徴として①~⑤プラス1という表現で紹介されています。

①認知機能の弱さ
②感情統制の弱さ
③融通の利かなさ
④不適切な自己評価
⑤対人スキルの乏しさ

+身体的不器用さ

これら①~⑤の特徴の何が問題なのかを総合してみると、

認知機能が弱いと、見たり聞いたりしたことを理解したり想像する力が弱くなる。

そうなると自分の行為の善悪の判断がつかないので「今これをしたらどうなるだろう」という予想も立てられず、感情を統制が効かずに、その場の感情にまかせて行動してしまう。

自分の感情や欲求に対して、頭が硬くて発想に融通が利かないままだと多様な解決策を考えられず、「欲しい→だから盗る」のような短絡的な行動をとってしまう。

また、適切な自己評価ができておらず「自分は問題ない」と認識していた場合、自分から変わろうとする意識は働かない。自己評価をするためには、ここでも結局「認知機能」が関係してくる。

そして、対人スキルが弱いと嫌なことを断れず、また、助けを求めることができない。その結果流されて非行化してしまうリスクが大きくなる。

こんな状態でさらに「身体的不器用さ」があると、うまく力加減ができないなど体の制御がうまくできないので、正しい姿勢が維持できず授業を最後まで受けることができなかったり、力加減ができず相手にケガをさせてしまうなど、トラブルに発展するケースが出てくる、ということです。

これらの根源が認知機能の弱さにある場合、非行少年たちを「本人が悪い」で済ませていいのか?と感じました。

第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える

ではどうすればいいのか?

一番気になるところです。

まず著者は非行少年から学ぶ子供の教育として共通するのは、「自己への気づき」と「自己評価の向上」だと書いています。

そして、認知機能に問題があるのに境界知能であるため病名もつかず見落とされがちな子供に早く気づき、 社会面、学習面、身体面の3つの支援をすることが必要であると書いています。

さらに著者は、認知機能をターゲットにした学習面のトレーニングが有効ではないかと考えました。

認知機能を鍛える『コグトレ』とは

著者は、これまでの学校や社会の支援以外に、学習の土台にある認知機能をターゲットにした「コグトレ」という認知機能トレーニングを推奨しています。

『コグトレ』とは、認知=Cognitiveとトレーニングからとった造語で、著者の宮口さんが代表世話人を務めるコグトレ研究会による認知機能トレーニングです。

コグトレは、認知機能を構成する5つの要素

  • ①記憶
  • ②言語理解
  • ③注意
  • ④知覚
  • ⑤推論・判断

これらに対する

  • ①覚える
  • ②数える
  • ③写す
  • ④見つける
  • ⑤想像する

という5つのトレーニングから構成されています。
教材はワークシートを利用し、紙と鉛筆を使って取り組みます。
1日5分程度でできるこのトレーニングが認知機能を強化するために有効だと説明しています。

トレーニングメニューは社会面、学習面、身体面の認知機能トレーニングメニューがあります。もう少し詳しく書くと、

①認知作業トレーニング Cognitive Occupational Training:【 COGOT 】
 身体面:「基不器用さの改善(自分の身体、物と自分の身体、人の身体と自分の身体)」
②認知機能強化トレーニング Cognitive Enhancement Trainig:【 COGET 】
 学習面:「基礎学力の土台作り(覚える、見つける、写す、数える、想像する)」
③認知ソーシャルトレーニング Cognitive Social Training:【 COGST】
 社会面:「対人スキルの向上(感情、対人マナー、危険予知、問題解決)」

この3つです。

画像:コグトレ研究会HPより引用

本書では158ページから170ページまで12ページにわたって例を挙げた具体的な説明が書いてありますが、内容を書くとネタバレになるので、ぜひ本書を手に取って読んでみてください。

コグトレに興味を持たれた方はぜひコグトレ研究所のサイトもご参照ください。

まとめ

今日は話題の新書「ケーキの切れない非行少年たち」の一部をご紹介しました。

僕の知人に、発達障害児への療育をしている人がいるのですが、その人の話を聞くと、発達障害のうち特に境界知能の子供たちは、早くからトレーニングするほど認知面、感情面などを成長させ、「個性」として活かせるようになる可能性が高いといいます。

逆に、療育が遅くなると性格や個性が固定されてしまって本人の抑制が効かず、社会に出るときに苦労する傾向があるそうです。

これらの子供たちを支えるためには、現在の学校の先生だけでは無理だと思います。

かといって社会がみんなこれらの保護や支援が必要な子供たちに対して寛容かというとそうでもありません。

子供のサインに親が早く気付くことができればいいのですが、親が気づかない、また親自身が発達障害というケースもあり実はかなり難しい社会問題となっています。

こんな子供たちがいるということ、早くからの認知能力のトレーニングが大切なんだということを知っただけでもこの本を読んだ意味はあるのではないかと思いました。

もしこの本が気になった方は手に取ってみてください →Amazonへ
あとがきまで含めて全182ページのボリュームなので一気に読めます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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